弊社介護用具制作担当の野中清次には、時折り特注の手すりの取り付けの依頼があったりします。
手すりだったら、多くの方は福祉用具販売店へと考えられるかもしれません。
ただ、通常の手すりでは対応出来ないという場合もあるんです。
これは2年程前に、重度の障がい者の訪問介護をしているところから、トイレ介助でお困りとの相談を受けた時の話です。
(野中清次Facebookより)
介助者が腰を痛めてしまって…
訪問介護の方と一緒にご自宅へ伺って、ご本人の様子を拝見させていただきました。
ご本人は、自力で立ち上がる事は出来ず、お尻をずりながらの移動、左右の手は軽く握った状態で開くことはできないという状態です。
お話を聞いてみると、決して広いとは言えない都内のマンションのトイレで、トイレの介助が大変で既に数人の介助者が腰を痛めてしまって介助につけないとの事でした。
実際にトイレ介助の様子も見させてもらったのですが、トイレの入り口まではご本人が移動して、そこから介助者がグイッと持ち上げられる感じで、ご本人も介助者も双方が大変なおもいをしながらのトイレ介助のように見えました。
なにか丸い棒はありませんか?
大変なのは狭い所で立たせる事。これを少しでも軽くする事が出来たらと、トイレ内で立ってもらうのではなく、入口で立ってもらい数歩で便座の位置に座れればと考えました。
勿論、ご本人の力で立ってもらうのが一番良いと。そこで、ご本人の握力・腕力・脚力がどの程度あるのかをチェック。手を強く握ってもらったり、腕相撲をしたり、二人で同じ様に足の裏を掴んでおしくらまんじゅう。
握力・腕力もしっかりあり、曲がってはいるものの両足ともかなりの力がある事が確認できたので、ご本人や立ち会っていただいた方に「この部屋の中で、なにか丸い棒はありませんか?」とお願いしました。
すると、一同キョトンとされています。
「左右の手は軽く握った状態で開くことはできないでしょ。でも力が有るので、一番握りやすく一番力の入る太さを探したいのです。」とお伝えしたところ、「あぁ~☆」と。
納得していただけて、すりこぎ・籐の家具の足・ベッドのパイプ・折り畳み椅子等々、様々な太さの棒状のモノをご本人に握っていただき、一番力の入るモノのサイズで手すりを作ることにしました。
楽に立ってもらう事が出来ている
後日、手すりを取り付けるという事で前回と同じメンバーに来てもらいました。
取付ける手すりには、滑り止めを付けており、縦にして高さを調整。取付金具は少し長めにしておきました。
お付き合いのある訪問介護の方は、これまで何度も相談に乗って製品も作ってきているので信頼されているのですが、ご本人も他の皆さんも不思議そうな顔で見られています。
手すりを試していただく前に、使い方を説明したらなんとなく理解されたようで、とりあえず介助者の方と試していただきました。
しっかりと手すりは掴め、立ち上がるのも脚に力が入っているご様子。
介助者の方には「これまでと違い楽に立ってもらう事が出来ている」と言っていただけました。
使いやすい介護用具を作る
なぜ長くしてあるのは気が付いてもらえなかったのですが、数日後訪問介護の方から連絡が有り、野中さんに頼んで良かったと伝えて下さいと、それと取付金具が長い理由が分かったと。
立ち上がった時に寄りかかっても手すりがグラついたりせず、ズボンが下せるようにと考えて、長くして作ったのですが、あえて私はお伝えしませんでした。
ご使用になられている中で、ご本人の使い勝手がいいように使うことが大切だから。
1人1人と真剣に向き合わないと解らない事だらけです。
ご本人の持っている力を使わせてもらい、使いやすい介護用具を作る。
難しいところも有りますが、これが私の仕事なんです。